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身近な自然を守る 高尾ツリーハウスプロジェクト
身近な自然を守る 高尾ツリーハウスプロジェクト
高尾ツリーハウスプロジェクト
東京都・高尾山。都心から一時間足らずで行くことの出来るこの山は奈良時代、およそ1200年前に創建された高尾山薬王院のある霊山であると共に老若男女、家族連れでも一日でゆっくりと山歩きが楽しめる山地公園として年間250万人の人々が訪れる「東京都民のオアシス」でもある。599メートルの低山に植物1300種、野鳥150種、昆虫5000種が生息する豊かな自然がその魅力だ。都心部から約50キロ圏を環状に結ぶ圏央道はこの高尾山に直径10メートルのトンネルを2本とジャンクションを作る計画で、工事が進み、近隣では滝や井戸が枯れる現象も起こっている。今回は身近な自然を守る試みを続ける「虔十(けんじゅう)の会」の坂田晶子さんに話を伺う。
都市の利便性と身近な自然
自然ねっと
高尾山といえば東京都民のオアシスとして遠足やちょっとした登山とかで訪れる山ですが、ツリーハウスをつくろうって考えたきっかけってなんだったんですか。
坂田さん
もともとは有志で環境の勉強をしていたんですね。それで週に一回集まって温暖化や民俗学を学んだりしていました。といってもフィールドワークと称して釣りをしたりして(笑い)。環境や自然について考えたり、学んでいたりしながら、実は釣りもしたことがないっていう人が多いことに驚いたんです。釣りって水面を見ているだけではわからない複雑な川の流れを読んだりしないとなかなか釣れないですから、見えないものを想像する必要がありますよね。また、釣りを通して生き物の感触をじかに感じたり、釣りを通じて自然に触れ合い、理解するって大事なことだと思ったんです。そういうことをやっていく中で東京近辺に住んでいて自分たちの力で自然を守ることに何か出来ないかって考えたとき、だれもがいったことがあって誰もが知っている圏央道の問題で揺れる高尾山があったんです。それで始めたのが「虔十(けんじゅう)の会」なんです。 FoE JAPAN 和田さん
自然ねっと

なるほど。でもそこからツリーハウスってちょっと距離ありますよね。

坂田さん
ツリーハウスは、自然がどうのっていうより、自分たちが作りたかったっていうのが大きいのかな(笑い)。子供のころ近所の原っぱや山とかに秘密基地って作った経験ってありませんか?そこが原典なんです。大人になって忘れてしまう身近な遊びを大人になった今、また始めようって考えたんです。私達のシンボルを作りたいって思ったんですね。
自然ねっと
確かに『ハックルベリーの冒険』や『トム・ソーヤの冒険』なんてワクワクしながら読みました。
坂田さん
今のこども達は原っぱを駆け回るってなかなかありませんよね。それどころか怖くて原っぱに入れない子もいるんです。身近であったはずのそういった場所がなくなり、自然とどう関わっていいかわからないこども達に自然とのかかわり方を教えてあげることも私たち大人の責任じゃないかと思っているんです。ですから、ツリーハウスを作るっていうことだけではなく、梅の木に登って梅の実を採ったり、川で泳いだりっていう楽しみも高尾山にはあるんです。高尾山の真っ暗な中で見る星は綺麗ですし、疲れたときとか、ストレスがたまっているときとかに思いっきり叫んだりする場所でもあるんです。私にとって絶対必要な場所が高尾山なんです。
自然ねっと
それで高尾山にツリーハウスなんですね。やっと結びつきました(笑い)。でも高尾山って国定公園ですよね。
坂田さん
  そう。建造物は作れません。道路やトンネルは造ってツリーハウスはだめっていうのも変な話ですが、ここは裏高尾になります。思いつきはしたんですが、みんな大工仕事の経験もありませんし、資金もありません。そこでアウトドアウェアのパタゴニアさん、原宿や神楽坂などにツリーハウスを作った日本のツリーハウスの第一人者でであるJTNの小林さんや柳田さんに協力してもらって5月から作り始めたんです。山の斜面に立つ大きなもみの木を中心に作ることにしたんですが、もみの木がどんな木なのか知らないと、木を痛めてしまいます。また、立っているのもやっとの斜面で土を掘るって作業はやってみないとわからない厳しさってありましたね。でも木や土に触れる楽しさもまたやってみなければわからないことなんですね。ツリーハウスを作るっていうのは木と共にある家であったり空間なんです。自然と触れ合える空間・場所ですから多くの人に来てもらってツリーハウスを楽しんでもらい、高尾山の自然のすばらしさをわかってもらえればと考えています。
 
FoE JAPAN 和田さん
自然ねっと
高尾山の自然のすばらしさを理解することで圏央道の問題への関心も高まるということですね。
坂田さん
 
自然の良さって考えたときに日本アルプスや白神山地とかっていうと関心は高くなります。でももう少し身近な自然にも関心を持ってもらいたいんです。高尾の自然を守る運動は手段ではなく、目的です。一番の理由はやっぱり高尾が好きだからなんです。社会正義とかでは人の気持ちは動かないですよね。高尾山はローカルなことなんですけど、そこから日本の公共事業の問題点が見えてきたりすることもあります。公共事業すべてがだめだとは思いません。公共事業は私達の生活に必要な部分もありますし享受している部分もあります。本当に必要なものはどんどんやるべきです。私達は一つひとつのことに対して賛成・反対を決めていけばいい。貴重な自然を壊してまで便利さなどを求める必要があるのか自分たちで考えた結果、やめたほうがいいんだと思ったんです。 FoE JAPAN 和田さん
自然ねっと
好きでなければ「自然を守ろう」っていっても掛け声だけに終わってしまいますよね。
坂田さん
  遠くの自然だけではなく、自分自身の手が届く身近な自然を守ろうということです。高尾山は帰化率が少なく在来種が数多く残っている山です。微妙なバランスの上で成り立っています。例えば高尾の野鳥は高尾山で営巣し、餌をとります。理想的な生態系なんです。また高尾山は水資源が豊富な山です。水と植物・昆虫、野鳥など、複雑につながっているんです。一度壊してしまえば元には戻らない、取り返しがつかないのが水の問題です。山は土の塊ではなく水袋なんです。山の中に複雑な水脈が流れています。特に高尾山は小仏層と呼ばれるスポンジのような山です。ですから海底トンネルのような工事が行なわれます。セメントミルクと呼ばれるどろどろのセメントを注入して水脈をとめ、トンネルを掘るんです。高尾山の修験者たちが打たれる滝の水も枯れてしまうことになります。中央道で生態系が分かれてしまった山ですが実際、八王子城跡の御主殿の滝はボーリング用の小さな穴を開けただけで枯れてしまったんですね。また、東京では有名なお豆腐屋さんも高尾にはありますが、綺麗な水があってこそです。それにトンネル残土の問題もあります。どこに捨てるのか。トンネル工事では谷に捨てられてまったく生態系が変わってしまった場所もあるんです。高尾山の工事はそこをはっきりしないまま進んでいます。
 
FoE JAPAN 和田さん
自然ねっと
今後はどのよう活動を展開していかれるのですか。
坂田さん
  ツリーハウスを作っていくのはもちろんですが、これまでも「やま、かわ、うみ、そら FESTIVAL」という山・川・海・空があげる悲鳴に耳を傾けて豊かな自然を守ろうという趣旨のイベントを立川の国営昭和記念公園で開催したり、署名運動や天狗みこしを担いで高尾山の自然をPRしてきました。10月には「高尾山天狗トレイル」も開催しますし、環境問題に関心がない人もツリーハウスをきっかけに関心を持ってくれればいいんです。もちろん関心を持っていない、持っていなくてもツリーハウスは楽しいですから、ぜひ一度遊びに来て身近な自然を楽しんで欲しいですね。今後は木登りワークショップとかロープワークショップとかも予定していますから多くの方が参加してくださればと思います。東京都民みんなが高尾山のすばらしさと圏央道の問題を知っている位にはしたいんですけどね。
自然ねっと
ありがとうございました。
トレイル ・・・ ”山道”
編 集 後 記
鶯の声を聞きながら高尾山を登り、見晴台からぶなの木越しにシャンクションを眺める。沢に山女の姿を見ながらツリーハウスのある裏高尾・日影沢へ向かった。途中多くの植物やイヌブナの原生林やもみの大木をはじめとする樹木そして昆虫たちを見た。梅の木に登って思わず叫びながら木を揺すり梅の実を採った。何十年ぶりの木登り。梅酢で喉を潤し、山女たちが泳ぐ渓流で顔を洗い汗をぬぐった。築400年の民家の頭上の迫る圏央道を見上げる。誰もが知る高尾山。誰も知らない圏央道。身近な自然と道路、自然と都市生活を考えてみた。

【参考URL】
ジャパン・ツリーハウス・ネットワーク
http://www.treehouse.jp/
虔十の会ホームページ
http://homepage2.nifty.com/kenju/
虔十ブログ
http://kenju-no-kai.cocolog-nifty.com/kenju/
パタゴニア
http://www.patagonia.com/japan/index.shtml
2005年6月取材
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