日本の恵まれた森林がすべて砂で埋まってしまう としたらどうだろう。私たちの生活に与える影響は計り知れないものになるだろう。 実際、世界各地ではこの砂で埋まってしまったり、埋まりつつある草原や森林が増えている。 中国・内モンゴルのホルチン沙漠もそんな中のひとつだ。
ほんの数十年前まで森と草原の広がるゆたかな 大地だったこの場所も乱開墾や過放牧といった行き過ぎた土地の利用によって急激に沙漠化が進んでいる。
そんなホルチン沙漠で緑の大地への復活を目指し、地域住民と協力しながら砂漠緑化活動をするプロジェクトが ある。
そこで今回はプロジェクトを進める「国際環境NGO FoE Japan」の和田鈴子さんに 「
中国沙漠緑化プロジェクト
」について伺った。
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自然ねっと事務局
(以下自然ねっと)
FoEは「地球環境と人々の暮らしを守る国際環境NGO」ということですが、どのような団体なのですか?
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FoE JAPAN 和田さん
FoE JAPANは世界70カ国の中の日本のメンバー団体です。
各国は独自に各国のテーマを決めてやっていて、国際会議やイベント時には共同して活動します。
メンバーの方向性は地球規模の環境問題。私たちはその中でも日本が影響を与えている多くの環境問題に ついて取り組んでいます。
まだまだ規模は小さくて、最近になってニュースレターなども創るようになりましたが、 自分たちの活動に追われて、わかりやすく伝えようというところまで意識が届くようになったのは 最近のことなんです。
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自然ねっと
そうなんですか。実際の活動はどのようなものなんでしょうか?
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FoE JAPAN 和田さん
今までは環境に関する政策提案型の活動が主体でした。
温暖化や森林や沙漠の問題、ODA、日本が社会や世界に与えている環境の問題とかを政策提言して来ましたが、 それだけでは、一般の中に広げていくためには中身が専門的になりやすく、足元から広げていきたいということで 参加型の活動を少しづつはじめているところです。森林問題なら林業の体験など身近なところから取り組んでいます。沙漠の問題も緑化隊をつくって年数回、参加型として行なっているんです。
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自然ねっと
政策提案型から参加行動型へということですね。様々な「環境問題」があると思います。
なぜいま沙漠緑化なのでしょうか。
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FoE JAPAN 和田さん
沙漠化問題は日本にいるとなかなかなじみのない問題ですが、 国際的に見ると大きな問題となっています。その中で隣の国、中国で起こっている沙漠化も大きな問題として あります。日本にも黄砂が飛んでくることもありますよね。沙漠の緑化についていろいろ調べているうちに 緑化活動する様々な団体の人と話をするようになって、その中で「沙漠植林ボランティア協会」の沙漠を 緑化して20年後に返還するという方法、現地住民の立場に立って行なう活動が非常に効果的で共感するところが大きかったんです。そこで「沙漠植林ボランティア協会」には技術面など助けてもらいながら、私たちは技術も経験もないが、多くの人の活動を伝えるとか発信するとかの部分で手伝えるのではないかと いうことで協力してやっていけるのではないかと考えたんです。それで人を集めてツアーを企画し、現地で活動を展開しているんです。
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自然ねっと
それが「沙漠緑化プロジェクト」ですね。詳しくお聞かせください。
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FoE JAPAN 和田さん
2000年8月から現地を視察したり準備を行なっていたのですが、 私自身は2001年の4月から正式スタートでその時点から関わっています。最初はボランティアとして関わりだしたのですが、 ツアーの準備や事務の手伝いをしているなかで、最初のツアーに同行することになりました。もともと沙漠のことをよく知っているわけではないし、技術があるわけでもありませんでした。そこですでに現地で長年活動されている団体から話を聞いたりしながらのスタートでした。私自身も環境問題に興味がないというわけではなかったのですが、事務作業のボランティアをしていただけで、なにか勉強をしたりしていたわけではなかったんです。
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自然ねっと
そうなんですか。参加して気持ちが変化したこととかありますか。
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FoE JAPAN 和田さん
第一回目の活動ではじめて行ったとき、本当に何もないさらさらの砂地だったんです。 しかし、こんなに広い沙漠で確かに木を植えるということはよい活動だけれども、現地で実体験したこの目でしっかり見た沙漠化のすごさから考えると、広い面の中の小さな一点に過ぎないんじゃないかなと思ったんです。それが夏になって植えた苗木の周りに草などが自生するようになって、緑が増えたんですね。それで感激しましたね。沙漠とはいってももともとは緑があったところなので土地の回復力があるということを信じて活動してはいたのですが、自然の回復力を実感しました。
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自然ねっと
現地での活動は苦労も多いと思います。
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FoE JAPAN 和田さん
ダチンノール村での活動なのですが、私たちが行って木を植えてそれでおしまいでは意味がないんです。 村の人たちが主体となって行なっていけるような活動にしたいんですが、緑化活動の効果をわかってもらい 実践してもらうのが難しいですね。
活動を始めて3年目くらいになって少しずつ効果が現れだしてやっとこれからというところです。
村の人が意見を出してくれたり、話し合いに積極的に参加してくれるようになりました。 2年目に移住してしまった人が多かったんですね。
現在では60戸約300人いた村人が38戸約150人の半分くらいです。沙漠化のひどくないところに移住してしまったんです。そんな村人すら移住しようかどうか 迷っているところでスタートしてしまったので、村人が緑化に積極的になれなかったのは当然だったかもしれません。
2003年の3月くらいに移住もひと段落して、残った人は緑化に積極的に取り組んでいます。畑やビニールを張った 水田を村の人が利用できることがわかったことも大きな原因だと思います。
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自然ねっと
現在の活動内容についてお聞かせください。
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FoE JAPAN 和田さん
おもに植樹・井戸の掘削・柵の補修・灌水・苗畑での育苗など活動です。
現在の一番の問題は西側から砂が流れ込んできて柵沿いの苗木が育たず、せっかく自生した草も枯れてしまうんです。 行くたびに砂丘の形が変わっていくんですね。そこでこの流砂を防ぐために来年からは緑化地域を西側に拡張する ことにしたんです。これは住民からの提案がきっかけです。住民との話し合いの中でいろいろな意見が出て、 まず草方格(そうほうかく)という草を利用した理由差を防ぐ方法を試してみることにしたんです。
まずは砂丘の砂の流れを止めるのが課題ということで、格子状にシャバラという草を根っこごと取って来て、 砂丘の中腹に植えています。中腹に植えるのは中腹に植えれば砂丘の砂の流れが止まって、上のほうは飛ばされて 低いところに行く。それで平らになるという考えからです。昔はわらを差し込んでいたそうです。 採りたてのシャバラならば、あわよくば根付きます。また草方格の真ん中に木を植えれば育つんじゃないかと 試してみたりもしています。
誤解されがちなのですが、木を育てることが目的なのではなく、砂の流れを止めることが目的なんです。 砂の流れが止まることで自然の回復力で緑化していくのを待つということなんです。
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自然ねっと
今後の活動方針について教えてもらえますか?
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FoE JAPAN 和田さん
現在、地元の小学生にも参加してもらっています。20年後に大人になった子供たちが自分たちが植えた木や緑化した場所を大事にしてくれればと思っています。 また、活動が認められて現地の中学校と一緒に緑化活動をやろうということでいま調査や学校の先生たちや自治体のかたがたと話し合いなどを行なっています。
試しに春のツアーでは中学生と参加者が一緒に苗木を 植えました。3年計画でこれから動き出す計画です。中学との共同作業は村との共同作業とは違う意味で手ごたえを感じています。
村では苗木を植える時期はどうしても農作業の次期などと重なってしまうんですね。 無理強いはできない。中学では生徒も先生もいつも学校にいます。また、生徒が緑化を学んでそれを家の周りで行うなどの広がりがあります。波及効果が期待できっるんですね。
私たちも手探りでやっている状態なのですが、水のやり方ひとつとっても積極的に自分のアイディアを出して動いてくれます。何を植たらいいかとかどういう風に植えたらいいか、どうすれば活着するかを自分たちで考えてくれます。
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自然ねっと
「環境問題」や「沙漠緑化」に関心を持つ人は増え続けると思います。
なにかメッセージはありますか?
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FoE JAPAN 和田さん
NGOだけがやっても沙漠は広い。現地の人がより積極的に参加してくれるようになればいいと思います。私自身まだまだ環境に対する知識は多くありません。関わっていくことで少しづつ実感としてわかってきたかなぁという感じです。
砂漠化について研究している人は日本でも中国でもいるのですが、大学などで論文を発表しておしまいで、フィールドには生かされていません。もっと現地と結びつけばよいのですが。現地の人がそういう勉強ができるシステムも作り出さなければいけないと痛感しています。指導員の養成も重要課題です。
ツアー参加者は実際に自分の目で見て本とかテレビだけの情報ではなく体を動かしてということに興味や楽しさを覚えてくれました。それで始めてわかることもあると思います。
沙漠緑化に限らず、体験することで少しでも環境に関心を持ってもらい、また、身近な自然を少しずつでも知ってもらえればと思います。
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自然ねっと
ありがとうございました。
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FoE JAPAN ・・・ Friends of the Earth。
世界70カ国のメンバー団体による、 「地球環境と人々の暮らしを守る国際環境NGO」ネットワーク。
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ダチンノール村 ・・・ 中国内蒙古自治区通遼市北京の北東500キロにある村。
年間降水量約350ミリメートルで、地域の80%が沙漠化しているが、地下水は豊富で緑化の潜在能力は高いと考えられている。
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「中国沙漠緑化プロジェクト」の活動場所ダチンノール村のノールとは「湖」の意味だ。
現地での活動を多くの写真で見せてもらったが、ここにかつて大きな湖があり、そして緑豊かな大地があったとは実感できなかった。枯れ切った大木の根っこの写真を見せてもらったときわずかに面影を感じることができたくらいだ。
まだまだ恵まれた自然環境にある日本。豊かさを享受するばかりではなく、この豊かさを地球規模で考え、行動することも未来へ繋げていくため必要なことなのかもしれない。
編 集 後 記
沙漠化。地球温暖化をはじめオゾン層の破壊など多くの地球規模の問題が私たちの現在とそして未来を取り巻いています。日常に追われて考えることを忘れがちでもあり、「持続可能な経済社会」なんて言い方をすると小難しく感じてしまう環境問題ですが、今回お話をうかがう中で少し身近な問題として捉えることができるようになった気がします。
自然の脅威と偉大さを実体験として話される和田さんは少しうつむき加減に、ちょっとはにかみながらつたない質問にも丁寧に答えてくれました。声高でなく威圧的でもないその姿勢と行動力に自分を振り返って少し反省。自然を楽しむだけでなく考えてみる必要を実感しました。
FoE JAPAN ホームページ
http://www.foejapan.org/desert/index.html
2004年取材
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